建設業界とソフトウェア業界に適用される工事進行基準とは?
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建設業界と同じく、ソフトウェア業界でも工事進行基準という会計処理方法が採用されています。この工事進行基準とはいったいどんな考え方なのか、なぜ建設業界とソフトウェア業界に適用されているのか、詳しく会計していきます。
工事進行基準とは
工事進行基準とは、一つの案件が終わるまでの間に何度か会計処理を行う方法のことを指します。建設業界では大きなビルを建てたりトンネルを掘ったりするのに一年以上の月日がかかりますし、ソフトウェア開発も内容によってはかなり長い時間がかかります。
しかし仕事が完了した期の一度だけで会計処理をしてしまうと、それまでの間も経費が発生しているため数字上は赤字になってしまうかもしれません。また進行中の案件に対してクライアントから要求も出やすくなるので、いざ仕事が終わってみたら黒字にならなかったということもありえます。
以前採用されていた工事完成基準ではこうしたデメリットがあったため、新たに工事進行基準という方法が採用されました。これは工事の進捗度にしたがって経費や利益を算出し、その都度会計処理していくというもの。これにより常に案件の収支がわかりやすくなりました。
工事進行基準の適用

工事進行基準より前は、工事完成基準という、案件が終わった時点で初めて会計処理する方法がとられていました。その後は工事完成基準と工事進行基準のどちらもが併用されていますが、これは企業が任意で選ぶのではなくその案件に基づいて決められます。
工事の進捗部分について、「成果の確実性」が認められるものに関しては工事進行基準が適用となるのです。この成果の確実性が認められるためには、「工事収益総額」「工事原価総額」「決算日における工事進捗度」の信頼性がポイントになります。
「工事収益総額」の信頼性のためには、まず建設会社やソフトウェア会社がその案件を最後までやり通すのに十分な能力があることが前提となります。さらに案件を邪魔するようなものもなく、契約の中で対価についてきちんと定められていることが必要です。
「工事原価総額」の信頼性は、実際の原価にたいして正確な見積もりが行われ、それを適切に見直しているかどうかが重要です。
「決算日における工事進捗度」を見積もるためには、原価比例法という方法が採用されます。これは工事やソフトウェア開発において、工事原価が原価総額の何割を占めているかで計算する方法です。
これら3つのポイントをおさえることで、工事進行基準を正確に適用できるようになります。
新たな基準となる収益認識基準
工事完成基準から工事進行基準が採用されるようになった建設業界・ソフトウェア業界ですが、この度新たな基準が用いられることが決まりました。それが収益認識基準です。この方針は企業会計基準委員会(ASBJ)により定められました。
そもそも企業会計基準委員会とは、日本の会計基準を設定する民間団体のこと。もともとは企業会計審議会という金融庁長官諮問機関が会計基準を作ってきましたが、2001年に国際会計基準審議会が改組したとき、主体が民間団体でなければならないと定められたため整備された団体です。
企業会計基準委員会が定めた収益認識基準は、ソフトウェア業界においては、まず要件定義、基本設計、詳細設計、開発、開発テストに工程を分割し、それぞれにおける契約を締結する必要があります。その上で各工程で検収をし、その分の料金が支払われねばなりません。
建設業界においてはまず、収益認識基準で使われている用語を建設業でいうところの何を指しているかを明らかにする必要があります。下記の一覧を参考にしてください。
契約:工事請負契約
顧客:施主、発注者
履行義務:工事の完成と引き渡し義務
取引価格:請負金額
収益認識基準の基本原則は、「約束した財又はサービスの顧客への移転を、当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益の認識を行う」というものです。また、収益認識をするためには5つのステップに基づかねばならないとされています。
収益認識基準のための5つのステップ

そのステップとは、「(1)顧客との契約を識別する」「(2)契約における履行義務を識別する」「(3)取引価格を算定する」「(4)取引価格を履行義務に配分する」「(5)履行義務を充足した時、又は充足につれて収益を認識する」というものです。
建設業界において基本用語とステップを組み合わせて考えると、工事の案件ごとにまずは施主と契約内容について確認し、工事の内容、引き渡す成果物についても確認します。そして金額を定め、工事の進行とともに収益を認識していくという流れです。
ソフトウェア業界でいえば、「(1)顧客との契約を識別する」は顧客と契約を確認すること。ちなみにこれは、書面なしの口頭でも契約とみなされます。「(2)契約における履行義務を識別する」は契約の中にどんな義務があるかを確認すること。例えばシステムを作り、引き渡し、その保守を何年間するかなどをお互いに確認します。
「(3)取引価格を算定する」は金額の確定です。別のシステムも購入したら5%割引などを行う場合は、変動対価とみなすのがポイント。「(4)取引価格を履行義務に配分する」は、(3)で確定した金額に対して、自社が果たす履行義務を配分することです。
「(5)履行義務を充足した時、又は充足につれて収益を認識する」とは、収益をいつ確認するかということを指しています。システムを引き渡した時点で販売の義務は履行しますが、保守については事前に定めた期間を全うして初めて履行義務を充足したと考えるのです。
このように、建設業界もソフトウェア業界も一つの案件が完了するまでに長期的な時間がかかります。そのため収益の認識が複雑になってしまうのです。収益認識基準を正しく適用するために今から理解を深めたり、専門家に相談するなどして準備を整えましょう。