建設業界の新基準!IFRSの導入と工事進行基準とは
工事原価管理ならe2movE
2018年3月、建設業界ではIFRS(国際会計基準)によるルールが適用されることが決まりました。これは一体どんな内容で、建設業界では新たにどんな変化が必要になるのか。今回は工事進行基準とIFRSについて解説していきます。

まずは、IFRSそのものについてご説明いたします。IFRSとはInternational Financial Reporting Standardsの略で、国際会計基準審議会が取り決める会計基準のこと。国際会計基準審議会はロンドンにある団体で、2001年に国際会計基準委員会を改正する形で発足しました。こちらで取り決められたルールは現在110か国以上で採用されており、共通の基準を持つことで取引などをスムーズにしています。
日本で2015年からIFRSを採用する予定でしたが、東日本大震災が発生したことやアメリカでもまだ導入していないことなどから長らく遅れていました。また2015年3月時点で国内の上場企業73社が任意適用・任意適用予定となっていますが、この中に建設会社は入っていません。
しかし2018年3月に企業会計基準委員会が「収益認識に関する会計基準」及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」を公表し、建設業においてIFRSの考え方に則った会計がなされることに決まりました。
工事進行基準からIFRSへ
建設業界ではもともと、工事完成基準という方法が採用されていました。これは工事が完了した時点で、その会計期に売上や経費を計上するやり方です。しかし建設業界では他の業界と違って、一つの案件、つまり一つの工事が何年にもわたって行われることが多々あります。そのため、一期のみで会計をすると色々な不都合が生まれてしまっていたのです。
そこで採用されたのが、工事進行基準です。2009年に原則適応となってこの方法は、工事が終わるまでに何度か会計処理を行います。これによって「工事が終わってみたら赤字だった」「工事中にクライアントから色々な要求をつきつけられる」といったデメリットが解消されました。
しかしまたしてもルール変更があり、この工事進行基準は廃止され、2021年4月からは収益認識に係る会計基準に則った会計処理が義務付けられます。この基準はIFRSの第15号に規定された内容に基づいているので、日本の建設業界もとうとうIFRS基準の会計処理を採用するということになります。このIFRSのもとで工事進行基準を適用するかどうか、その条件も変更されるので次で詳しく見ていきます。
IFRS第15号とは

IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」では、契約当事者が義務を果たした時、契約資産(または負債)を財政状態計算書に表示しなければなりません。IFRSのもとで工事進行基準が適用されるかどうかは、次の2つが判断基準となります。
・建設会社が工事を行うことで生まれる建設物を発注者が支配している
・建設物が他に転用できず、建設会社は工事代金の支払いを発注者から受ける強制可能な権利を保持している
また、見積もりに関しても考え方が変わります。まず期待値ないし最頻値のどちらかによって変動対価を見積り、不確実性が解消されるのであれば、大きな収益の戻入れが生じないように変動対価を制限する必要があるのです。
IFRSには、顧客との契約における利益や時期など、財務諸表を利用する人が理解できるように情報を明らかにしなくてはならないという特徴もあります。具体的に何を明らかにするかも決められているので、その一部を紹介します。
・顧客との契約から認識した収益
・顧客との契約から生じた債権、契約資産、契約負債の期首・期末残高
・重要な支払い条件
・返品・返金の義務や類似の義務
・未充足の履行義務に配分した取引価格の総額
このほか、顧客との契約から認識した収益の分解についても開示しなくてはなりません。分解においては「売上報告や年次報告といった財務諸表外で行われている開示」「最高経営意思決定者が事業セグメントの財務業績の評価のためにレビューする情報」「企業または企業の財務諸表利用者が企業の財務業績の評価決定をするときに必要な情報」などを考慮して行います。
情報開示の具体例でも履行義務について言及していますが、IFRSではこの履行義務が重要なポイントの一つです。というのも収益認識の原則として、契約者の履行義務が解消するタイミングが収益を認識するタイミングとイコールと考えられるからです。
IFRSのメリットとデメリット
上記のようにIFRSのもとでは明らかにしなければならない情報が多く、その資料を準備するために手間がかかることは必須です。さらに2020年時点でIFRSを適用している企業は多くないので、そもそも情報が少なくルールそのものを理解することは容易ではありません。
そのため従来の方法からIFRSに移行するため専門家の力を借りる企業も多く、コンサルティング費用なども発生してくるでしょう。
一見するとルールが変わりややこしくなると思われるかもしれませんが、IFRSを導入することによるメリットもいくつかあります。まず上記で説明した収益認識や有給休暇引当金など、国内基準よりも自社の実態をきちんと把握できるようになるのです。自社だけでなく、子会社がある場合も同様の基準で業績を判断できるようになります。これは海外に子会社がある場合でも役立ちます。
海外投資家がいる場合は国内の会計基準とIFRSの違いをいちいち説明しなければならなかったのですが、その必要がなくなります。海外で資金調達する際も、わざわざ専用の資料を作らずともIFRSに則った財務諸表をそのまま使えるでしょう。
このように一長一短の会計方式ではありますが、ルール上、今後はIFRSを適用していかなければいけません。いざというときに不備が見つかったり、どうすればいいか途方に暮れてしまわないように、経理担当者のために開いたり、専門家に話を聞いたりなどするとよいかもしれません。
また、今後はIFRSに則った会計システムも普及すると考えられます。こうしたツールを導入することで効率的に準備を備えていきましょう。